渡辺と渡邊。

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渡「これやるよ」


高１のバレンタイン。


紙袋にどっさり貰ってきたらしい翔太がうちへ来て、こんな食えねぇ、っておすそ分けに来てくれた。


『翔太くんモテるねぇ』


なんてうちの親に言われて、満更でもなさそうにニヤニヤしてる。きも。


「まあ3つくらい貰ってやるかぁ」


って、手作りじゃないやつだけひょいひょい貰ってく。


渡「お前、手作りのやつも食えよ」


「さすがにそれは、さ」


翔太への想いが詰まってるじゃん、って。


渡「よく知らねぇ女の想いとか怖くて食えねぇよ」


「…それ聞いたらみんな泣くよ」


まあ確かにちょっと抵抗はあるかもだけど。


「あ、これ美味しー」


翔太の口にも、ポイって１個入れてあげて。


渡「…！うんま！！！高級じゃんこれ絶対！」


箱を見れば、確かにちょっといいチョコレート。


入っていた袋も、そのブランドの袋で。バレンタイン仕様で、ちょっと可愛い。


「…この袋、貰っていい？」


渡「ん？別にいいよ。俺そんなん使わんから」


あとこれとこれもやる、って、結局紙袋にあったやつほとんどわたしにくれて。


「…さすがにわたしもこんな食べれないよ」


渡「お母さんにでもあげれば」


…まあ貰うけど。


「ありがと」


渡「てかお前からはないの？」


「へ？」


渡「へ？じゃなくて。バレンタイン。チョコ。」


ほら、と手を差し出される。…えっと。


「ないよ？」


渡「即答すんな」


わかってたけど、ってがはがは笑うもんだから。


「お互い恋人出来なかったら、来年あげるよ」


半分冗談、半分本気でそう言ったら。


渡「…俺らがそうなる可能性は、ないんだ？」


…って。なんだか、急に真面目なトーンで言うから。


心臓が、ドクンてする。


「…え、」


渡「…ふはっ。冗談だわ。」


真面目な表情から、一気にいつもの表情に戻って。


…なんだ、冗談か。そうだよね。


「…幼馴染だし、男とか女とか、そういうのじゃ、ないじゃん」


翔太の隣に座って、そう言えば。


渡「…そっか」


…また、真面目な顔になる。


なんか今日の翔太、変。いつも変だけど。…そういうのじゃ、ない。


渡「…まあ俺ならすぐ彼女出来ちゃうけど」


わたしの頭をぽん、と撫で、そのままわたしの部屋を出ていく翔太。


なんでか分からないけど、胸がズキンて痛む音がした。

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